「響け!ユーフォニアム」研究 その2
ブラス・アンサンブル・サタデーでユーフォニアムを担当しております石田です。
前回に引き続き、「響け!ユーフォニアム」(以下、「響け!」と略します)のBGMについて書いてみます。
その2「意識の萌芽」
「意識の萌芽」というタイトルのBGMがあります。「響け!」をご覧になった方なら、大吉山山頂で流れた曲といえばお分かりになるでしょう。
麗奈が久美子を誘って大吉山に登り、夜景が綺麗な山頂で久美子に「私、特別になりたい」と言う。当たり前の人の流れに流されたくない麗奈は、特別になるためにトランペットをやっていると久美子に告げる。「トランペットやったら特別になれるの?」と問う久美子に対して麗奈は即答で「なれる」と返す。「もっと練習して、もっと上手くなれば、もっと特別になれる」と。ここで流れているBGMが「意識の萌芽」です。
こちらで試聴できます(ディスク1のNO.19)。
「響け!」の中でも独特の雰囲気を醸す第8話に魅せられた方も多いと思いますが、こんなにも強く印象に残るシーンは「意識の萌芽」なくてはあり得なかったと私は思っています。作曲者の松田彬人さんはこのシーンを見てこの曲を書いたのではないと思うのですが、作品の仕上がりを見ると、まるでこのシーンのために書かれた曲かのように絶妙に合っています。
私も第8話と「意識の萌芽」の魅力に囚われた一人なのですが、この曲の使用シーンを全話で調べてみたら、次のとおりでした。
第1話Bパート サボテンに話しかける久美子
第3話Aパート 低音1年生楽器選び
第5話Bパート 久美子、サンフェスで梓に旧友に会いに
行こうと誘われるが
第6話Bパート 初心者葉月に合奏の楽しさを味わわせようと
奔走する久美子たち
第8話Bパート 久美子と麗奈、大吉山山頂にて
第13話Bパート コンクール本番前、舞台上で会話する
久美子とあすか
以上のとおり、実は第8話の前に4回も使われています。このうち第8話と同様に、このBGMが登場人物の心象に添うような使われ方をしているのは第5話くらいで、第1話や第3話などは、私はミスマッチな感じがするのです。そこはもっとコミカルなBGMでいいのではないかと。
しかし、第1話や第3話であえて「意識の萌芽」を使用している可能性がある。これについては、「響け!」のオフィシャルファンブックに興味深い記述があります。
「(前略)アニメをご覧になって気づいた方もいるかもしれませんが、似たシーンでは同じ曲を何度も使っているんです。
そうしたのは、鶴岡さん(注:音楽監督)が最終話に向けてどれだけのイメージを積み重ねられるかというのを気にされていたからなんですね、それを観ている僕らは知らないうちにすり込まれて、どんどん積み重ねられて、だからこそ最終話でその音楽が流れただけで感動してしまう。
いわゆるパブロフの犬のように、特定の曲が流れたら感動するスイッチが発動するように作られている感覚がありました。
曲数をいっぱい使って飽きさせないやり方もありますが、今回そうしなかったのは、曲の効果を最大限に生かすための工夫なんです。」
(「響け!ユーフォニアム オフィシャルファンブック」、宝島社刊、100頁、音楽プロデューサー斎藤滋さんの発言より引用。)
つまり、一見ミスマッチに思えるシーンでもこの曲を使うことによって、無意識のうちにこの曲を視聴者に覚えさせ、非常に重要な大吉山山頂シーンで最大の効果を生むような計算がなされていた、ということです。すごい!深いわ~。
なお、「意識の萌芽」は、メロディでなくパルスのような和音の変化だけで曲が進行する部分があり、これはミニマルミュージックの手法を取り入れているのではないかと私は考えています。
冒頭のストリングスの透き通るようなD#の持続音上に響く電子音とピアノによる和音のパルスは、単なるエコー音のように聞こえますが、実は5拍子で拍を打っています。まるで大地に生まれた命の脈動のようです。この命は、あるとき芽生えます(=萌芽。パルスにA#の音が鳴る瞬間。一瞬輝くまぶしい光のよう)。
序奏としてのパルスからピアノのメロディに移ってからは3拍子となり、安定します。ストリングスの美しいハーモニーの変化と和音のパルスが絡み合い、ベースラインが上昇音階を何回も繰り返しながら盛り上がり、官能的なまでの音楽に高まります。わずか2分半ほどの曲ですが、「運命の流れ」とともに、私が非常に気に入っている曲です。
ユーフォ 石田
前回に引き続き、「響け!ユーフォニアム」(以下、「響け!」と略します)のBGMについて書いてみます。
その2「意識の萌芽」
「意識の萌芽」というタイトルのBGMがあります。「響け!」をご覧になった方なら、大吉山山頂で流れた曲といえばお分かりになるでしょう。
麗奈が久美子を誘って大吉山に登り、夜景が綺麗な山頂で久美子に「私、特別になりたい」と言う。当たり前の人の流れに流されたくない麗奈は、特別になるためにトランペットをやっていると久美子に告げる。「トランペットやったら特別になれるの?」と問う久美子に対して麗奈は即答で「なれる」と返す。「もっと練習して、もっと上手くなれば、もっと特別になれる」と。ここで流れているBGMが「意識の萌芽」です。
こちらで試聴できます(ディスク1のNO.19)。
「響け!」の中でも独特の雰囲気を醸す第8話に魅せられた方も多いと思いますが、こんなにも強く印象に残るシーンは「意識の萌芽」なくてはあり得なかったと私は思っています。作曲者の松田彬人さんはこのシーンを見てこの曲を書いたのではないと思うのですが、作品の仕上がりを見ると、まるでこのシーンのために書かれた曲かのように絶妙に合っています。
私も第8話と「意識の萌芽」の魅力に囚われた一人なのですが、この曲の使用シーンを全話で調べてみたら、次のとおりでした。
第1話Bパート サボテンに話しかける久美子
第3話Aパート 低音1年生楽器選び
第5話Bパート 久美子、サンフェスで梓に旧友に会いに
行こうと誘われるが
第6話Bパート 初心者葉月に合奏の楽しさを味わわせようと
奔走する久美子たち
第8話Bパート 久美子と麗奈、大吉山山頂にて
第13話Bパート コンクール本番前、舞台上で会話する
久美子とあすか
以上のとおり、実は第8話の前に4回も使われています。このうち第8話と同様に、このBGMが登場人物の心象に添うような使われ方をしているのは第5話くらいで、第1話や第3話などは、私はミスマッチな感じがするのです。そこはもっとコミカルなBGMでいいのではないかと。
しかし、第1話や第3話であえて「意識の萌芽」を使用している可能性がある。これについては、「響け!」のオフィシャルファンブックに興味深い記述があります。
「(前略)アニメをご覧になって気づいた方もいるかもしれませんが、似たシーンでは同じ曲を何度も使っているんです。
そうしたのは、鶴岡さん(注:音楽監督)が最終話に向けてどれだけのイメージを積み重ねられるかというのを気にされていたからなんですね、それを観ている僕らは知らないうちにすり込まれて、どんどん積み重ねられて、だからこそ最終話でその音楽が流れただけで感動してしまう。
いわゆるパブロフの犬のように、特定の曲が流れたら感動するスイッチが発動するように作られている感覚がありました。
曲数をいっぱい使って飽きさせないやり方もありますが、今回そうしなかったのは、曲の効果を最大限に生かすための工夫なんです。」
(「響け!ユーフォニアム オフィシャルファンブック」、宝島社刊、100頁、音楽プロデューサー斎藤滋さんの発言より引用。)
つまり、一見ミスマッチに思えるシーンでもこの曲を使うことによって、無意識のうちにこの曲を視聴者に覚えさせ、非常に重要な大吉山山頂シーンで最大の効果を生むような計算がなされていた、ということです。すごい!深いわ~。
なお、「意識の萌芽」は、メロディでなくパルスのような和音の変化だけで曲が進行する部分があり、これはミニマルミュージックの手法を取り入れているのではないかと私は考えています。
冒頭のストリングスの透き通るようなD#の持続音上に響く電子音とピアノによる和音のパルスは、単なるエコー音のように聞こえますが、実は5拍子で拍を打っています。まるで大地に生まれた命の脈動のようです。この命は、あるとき芽生えます(=萌芽。パルスにA#の音が鳴る瞬間。一瞬輝くまぶしい光のよう)。
序奏としてのパルスからピアノのメロディに移ってからは3拍子となり、安定します。ストリングスの美しいハーモニーの変化と和音のパルスが絡み合い、ベースラインが上昇音階を何回も繰り返しながら盛り上がり、官能的なまでの音楽に高まります。わずか2分半ほどの曲ですが、「運命の流れ」とともに、私が非常に気に入っている曲です。
ユーフォ 石田
スポンサーサイト